この記事でわかること
- 建設業許可を個人で取得する場合と法人で取得する場合の違いがわかる
- 個人事業主として建設業許可を取得するメリットとデメリットがわかる
- 個人事業主が建設業許可を取得する際の要件や書類を知ることができる
一人親方として建設業を営んでいる人も、建設業許可を取得することができます。
ただ、多くの人は建設業許可を取得することは大変に手間がかかり、また現実的ではないと考えています。
確かに、建設業許可の取得には費用や手間はかかりますが、決して大変なことではありません。
そこで、個人事業主として建設業許可を取得するメリット・デメリットや、要件などについて確認していきましょう。
- 目次
- 建設業許可を取る際の個人と法人での違い
- 個人事業主(一人親方)で建設業許可を取得するメリット・デメリット
- 法人で建設業許可を取得するメリットとデメリット
- 個人事業主の建設業許可取得の要件と必要書類
- 経営業務の管理責任者になるには?
- 専任技術者になるには?
- まとめ
建設業許可を取る際の個人と法人での違い
建設業許可を取得する場合、個人で取得するか法人で取得するかのいずれかになります。
一人親方として事業を営んでいる人は、個人として建設業許可を取得することとなります。
一方、株式会社などの会社で建設業を営んでいる場合は、法人として建設業許可を取得することとなります。
個人で建設業許可を取得する場合は、その個人に対して許可が与えられることとなります。
個人事業主の方が亡くなった場合には、その許可は消滅してしまいます。
仮に一人親方の子供が一緒に建設業を営んでいたとしても、建設業許可は引き継がれません。
もし子供が建設業許可を取得したいのであれば、別の人として子供が建設業許可を取得する必要があるのです。
これに対して、法人が建設業許可を取得する場合は、その法人が建設業許可を保有していることとなります。
法人の代表者が亡くなっても、その法人が存在し要件を満たしている以上は、建設業許可は消滅しません。
ただ、亡くなった人が経営業務の管理責任者や専任技術者になっている場合、その変更届を提出しなければなりません。
亡くなった人の代わりになる人がいないと、建設業許可が消滅しかねないため、注意が必要です。
個人事業で建設業を営んでいた人が、その事業を法人化する場合もあります。
この場合、個人として取得した建設業許可を、設立した法人で引き継ぐことはできません。
事業の実態は変わっていなくても、法人として建設業許可を取得し直す必要があるのです。
個人事業主(一人親方)で建設業許可を取得するメリット・デメリット
個人でも法人でも建設業許可を取得することはできます。
それでは、どちらで建設業許可を取得する方がいいのでしょうか。
まずは、個人事業主が建設業許可を取得するメリットとデメリットについて確認していきましょう。
個人事業主が建設業許可を取得するメリット
個人事業主で建設業許可を取得する最大のメリットは、法人設立をせずに建設業を営むことができる点です。
法人を設立する際には、法務局で登記しなければなりません。
登記を行うためには、通常は司法書士に依頼することになるため、費用がかかります。
また登記する際には定款を作成し、資本金を準備しなければなりません。
費用面や手続面で、法人を設立する際には負担が大きいため、法人を設立すること自体がデメリットになる場合があります。
仕事をもらうことができないなど大きなマイナスがなければ、個人事業主として事業を営んでも問題はないのです。
従業員がいる場合で法人として事業を営む時は、必ず法人として社会保険に加入しなければなりません。
しかし、個人事業主として建設業を営む場合は、従業員が4人以下であれば事業主としての社会保険への加入義務はありません。
そのため、従業員数が少なく小規模な場合は、個人事業主の方が、必要経費が少なく済みます。
また、建設業許可を取得する際に提出する書類の中には、法人だけに提出義務が課されるものがあります。
個人事業主として建設業許可を取得する方が、建設業許可の取得や更新の際に手間がかからないのです。
また、行政書士に依頼した場合には、個人の方が法人より費用が安く済むことが多いのもメリットと言えます。
個人事業主が建設業許可を取得するデメリット
個人事業主として建設業を営む場合、大きなデメリットとなるのは、仕事が少なくなる可能性があることです。
下請として元請業者から仕事をもらう場合、あるいは発注者から受注を受ける場合に、法人だけに取引が限定されることがあります。
特に元請業者や発注者が大企業の場合、個人事業主との取引は制限されていることが多く、仕事をもらえないことがあるのです。
また、建設業許可は事業主個人に認められるものであるため、その人が亡くなってしまうと建設業許可も消滅してしまいます。
仮にその事業の後継者がいる場合でも、新たに事業主となる人が建設業許可を取得しなければなりません。
新たに取得するためには手続きや費用面の負担が大きくなることから、個人事業主として建設業を行う場合のデメリットとなります。
また、最初は個人事業主として建設業を営んでいても、事業を拡大するにつれて法人化したいと考えることがあります。
しかし、個人で取得した建設業許可は、法人化した際に持ち越すことができません。
そのため、法人化した際には法人で改めて建設業許可を取得する必要があるのです。
法人で建設業許可を取得するメリットとデメリット
それでは、法人が建設業許可を取得して建設業を営む場合、個人事業主とはどのような違いがあるのでしょうか。
法人が建設業許可を取得するメリットとデメリットについて考えてみます。
法人が建設業許可を取得するメリット
建設業を行う事業者が法人である場合、大きなメリットは法人として大きな信頼を得られることにあります。
一人親方として建設業を営んでいる場合、その事業主に不測の事態が発生すると、その仕事は中断してしまいます。
そのため、仕事を発注する会社や下請に仕事を依頼する元請の会社は、個人事業主とは直接取引を行わないケースがあるのです。
しかし、法人であればそのような心配はなく、どのような仕事でも受注できる可能性はあります。
取引先の幅を広げ、安定した経営を行うためには、法人とすることにメリットがあるのです。
また、このようなことから、法人として営業を行う際には、個人事業主より信用を得やすいと言えます。
そのため、金融機関から融資を受ける際には、個人事業主より融資を受けやすいのです。
また、法人の場合は、会社の株式を譲渡し、代表者が交代することでその事業を継続することができます。
特に建設業許可については、法人が存続し要件を満たす限り、いつまでもその許可は有効です。
しかし、個人事業主の場合、建設業許可はその人が亡くなってしまうと自動的に消滅します。
そのため、跡を継ぐ人がいても、建設業許可を新規に取得しなければならないのです。
法人の方が事業の継続性があり、スムーズに事業を次の世代に承継することができます。
法人が建設業許可を取得するデメリット
個人事業を始める際には、特別な費用はかかりません。
事業に必要な道具や機械を購入し、あるいは必要な経費を支払うだけです。
手続き面でも、税務署などに事業を開始したことを届け出るだけであり、特に難しいものはありません。
しかし法人を設立する場合、その設立に関する手続きを法務局で行う必要があります。
この場合、20万円程度の費用が必要となるため、決して小さな負担ではありません。
また、法人には役員が必要となりますが、その役員の改選時にも登記は必要となります。
そのため、設立した時だけでなくその後も定期的に登記を行う必要があり、個人事業主の場合より費用負担が増えてしまうのです。
また、法人にした場合は必ず社会保険に加入する必要があります。
そのため、社会保険に関する手続きが必要になること、従業員の社会保険料などの負担が増えることもデメリットとなります。
個人事業主の建設業許可取得の要件と必要書類
個人事業主が、法人成りせずに個人事業主のまま建設業許可を取得するには、どのような要件を満たす必要があるのでしょうか。
また、その際に必要な書類にはどのようなものがあるのでしょうか。
個人事業主が建設業許可を取得する際の要件
個人事業主であっても法人であっても、建設業許可を取得するための要件に違いはありません。
法人化しなくても、建設業許可を取得することは可能ですが、法人でも個人でも要件は同じなのです。
建設業許可を取得するための要件は以下のとおりです。
- 経営業務の管理責任者がいること
- 専任技術者がいること
(1)と(2)については、後ほどその要件について詳しく確認していきます - 誠実性があること
過去5年間に建築士法違反などで許可や免許を取り消されていないことが求められます - 財産的基礎等があること
500万円以上の資金を有することが求められます - 欠格要件に該当しないこと
成年被後見人や被保佐人、不正に建設業許可を受けて許可を取り消されてから5年以内の者などは、欠格要件に該当します
また、許可申請書や添付書類の重要な事項について、虚偽の記載や記載が欠けている場合も欠格要件に該当します。
欠格要件に関する事項は全部15あり、そのいずれか1つでも該当すると、建設業許可を受けることはできません。
また、建設業許可に関して虚偽の申請を行うと、その後5年間は許可を受けられなくなることにも注意が必要です。
個人事業主が建設業許可を取得する際の必要書類
個人事業主が、建設業許可を取得する際に必要となる書類について、確認しておきましょう。
なお、経営業務の管理責任者や専任技術者に関する書類は後ほど確認するため、それ以外の書類をご紹介します。
建設業許可を取得する際には、建設業許可申請書や営業所一覧表などの申請書類を提出します。
また、工事経歴書や使用人数などの添付書類も作成して、申請書と一緒に提出します。
法人の場合は、定款などの書類を添付しなければなりませんが、個人事業主はそもそも定款などはないため、提出は不要とされています。
ただ、全体的にみると、個人事業主であるために手続きが簡潔になるというわけではないため、法人と同じように準備が必要です。
経営業務の管理責任者になるには?
経営業務の管理責任者になる人は、どのような要件を満たしていなければならないのでしょうか。
また、どのような書類が必要になるのでしょうか。
建設業許可の取得にあたって重要なポイントであるため、しっかりと確認しておきましょう。
経営業務の管理責任者になるための要件
経営業務の管理責任者は、営業所において対外的に責任を有する立場になります。
そのため、建設業の経営業務に関する一定の経験がなければ、経営業務の管理責任者になることはできません。
個人事業主の場合は、その事業主本人か支配人のうち1人について、以下のいずれかに該当しなければなりません。
- 建設業許可を取得しようとする業種の経営経験が5年以上ある
- 建設業許可を取得しようとする業種以外の業種の経営経験が6年以上ある
実際には、(1)の要件によって建設業許可を取得するケースが多いと思います。
また、支配人を置いているケースはほとんどなく、事業主自らが経験を有することで申請を行うことになります。
経営業務の管理責任者になるために必要な書類
経営業務の管理責任者になるためには、経営経験があることを証明する書類が必要となります。
そこで、(1)であれば5年分、(2)であれば6年分の確定申告書の写しを提出することとされています。
また、当該年数分の工事請負契約書、注文書、請求書等も必要とされています。
また、請求書を添付する場合は、請求書のほか、実際に入金があったことを証明する通帳も必要とされます。
このような書類を添付することで、実際に過去に建設業の経営業務を行っていたことを証明するのです。
専任技術者になるには?
専任技術者として認められるためには、どのような要件を満たしていなければならないのでしょうか。
建設業許可を取得する際に必要となる書類もあわせて確認していきましょう。
専任技術者になるための要件
専任技術者とは、専門知識や経験を持つ人が、営業所に常勤して建設業に従事する人のことです。
そのため、専門的な知識や経験がなければ、専任技術者となることはできないのです。
具体的な要件は以下のように定められています。
- 建設業許可を受けようとする業種について、高校の指定学科卒業後5年以上、大学の指定学科卒業後3年以上の実務経験がある
- 建設業許可を受けようとする業種について10年以上の実務経験がある
- 建設業許可を受けようとする業種に関して定められた国家資格を有する
この3つの要件のいずれかを満たすことで、専任技術者となることができるのです。
専任技術者になるために必要な書類
専任技術者になるために必要な書類とは、実務経験があることを証明するか、国家資格を保有することを証明するものです。
具体的には、以下のような書類のことを言います。
(1)の場合、学校の卒業証明書と実務経験期間分の工事請負契約書や注文書、請求書などの書類が必要です。
(2)の場合は、実務経験期間分の工事請負契約書や注文書、請求書などの書類が必要です。
(3)の場合、保有する国家資格の合格証明書などが必要となります。
実務経験を証明する書類として、10年分の実務上の書類が用意できるケースは少ないかもしれません。
どの要件で建設業許可を取得するかを決めたら、あらかじめ必要な書類を確認して、提出できるように保管するようにしましょう。
まとめ
個人事業者でも建設業許可を取得することはできます。
建設業許可を取得していると、それだけ取引先への信用は増し、取引の幅が広がる可能性があります。
ただ、建設業許可の取得には要件があり、必要となる書類も多くあります。
これから建設業許可を取得しようと考えている人は、計画的に準備して、スムーズに取得できるようにしておきましょう。